災害と感染予防 その後の課題


 東日本大震災から4年が過ぎようとしています。大規模災害がもたらしたインパクトは未だ被災地に大きな傷跡を残し、原発問題は除染廃棄物も含め収束にはほど遠く、8万人を超える人々が今も仮設住宅暮らしを続けています。

 我々がサポートできるのは、災害現場でも感染予防の分野に限られ、東日本大震災の際も個人防護具や食料を届けするチームMDAT(Moraine Disaster Assistance Team)を独自に組織し、震災の4日後には被災地の病院に派遣しました。その後この大震災での我々の活動は避難所におけるインフルエンザやノロウィルス疾患、肺炎の感染をいかに防ぐかが主な活動となり、当時は災害時における感染予防のためのマニュアル等は国内には存在しませんでしたが、その後、日本環境感染学会より「大規模自然災害の被災地における感染制御マネージメントの手引き」(検討委員会委員長:櫻井滋先生)が2014年1月に発行され、今日の国内における自然災害の重要な指針となっています。

この大災害から4年という機会にあらためて、大規模災害に関わる感染予防の課題を考えてみました。

≫ 超急性期(発災後48時間以内)における感染予防
 一刻を争う超急性期の災害現場での感染予防には、当然ながら施設とは違う視点が要求されます。
 災害現場ではDMAT(災害派遣医療チーム)を含め、災害時の救護に当たる医療従事者や消防、自衛隊員等を感染から守ることが第一優先となります。英国の大規模災害医療マネージメント標準であるMIMMS (ミムス:Major Incident Medical Management and Support) でも適切な個人防護具(PPE)を装着しない医療従事者は、現場に入ることすら許可されません。一見、被災者を二の次にしているようにも取れますが、救急医療の基本原則の一つに「自分自身が傷病者にならないこと」があります。災害のレスポンダーは自らが傷病者になれば、誰の役にも立たないばかりか、他のマンパワーを枯渇させ、すでに限界に近い医療体制を著しく悪化させる可能性があるからです。

≫ いつグローブを交換するのか?
 また、PPEの必要性に関しては一応に指摘されていますが、あまり言及されていないのが、PPE、特にグローブをいつ交換するのかということです。通常時の医療施設では患者ごと、もしくは処置に応じて交換するのが当たり前ですが、災害現場ではそれが困難なことから、救護中の交換を勧告できない事情があります。一刻を争う緊急時に、新しいグローブを取り出して交換している時間はなく、現実的ではないというのがその理由です。
 また、使い捨てのグローブは激しい処置では破損する可能性がありますが、破れたグローブでそのまま処置を続けることも交換できないので仕方がないと言った現場の声もお聞きします。災害時は外傷患者が多数発生し、当然ながら多量の血液曝露も予想されることから、グローブ等のPPEの交換は、被災患者だけでなく、救護にあたる医療従事者の安全を守るためにも非常に重要であり、あまり議論はされていませんが、大きな課題だと我々は認識しています。
 この課題に関しては、我々グローブメーカー側にも大きな責任があり、この問題を解決するための携帯型で素早く取り出せるPPEを開発すべく、試作を繰り返しています。開発中の製品の話をブログに書くべきではありませんが、現場で被災者を救うために高い使命感で活動される従事者の安全を少しでも高めることが我々の使命であると信じており、他社も含めてこの分野への関心はもっと高まるべきと考えています。

 また、災害現場では、感染のリスクとは別に、瓦礫からの粉塵やアスベスト、昨年の御嶽山噴火のように有毒ガスや火山灰が発生することもあり、これらの有毒物質から眼や呼吸器を防護することも非常に重要です。災害の種類やリスクに応じて必要とされるPPEも種類が異なり、事前に交換手法も含めてパッケージし、装脱着の訓練しておくことも大切です。

≫ ロジスティック(物流):メーカー同士、現地ディーラーとのアライアンス
 感染予防製品に関わらず、東日本大震災では物流のインフラが崩壊し、病院に必要物品が届かないという事態が発生しました。我々自身、被災した行政に物品の提供を申し出ましたが、行政自体が被災しており、現地に届けても病院に分配する体制が機能していなかったので、直接病院に物品を届ける必要性に迫られ、チームを派遣した経緯があります。
 また、被災地を支援する課程で大きな問題だと感じたのが、全国から届く救援物資です。我々の活動でも救援物資の医療用製品の整理整頓を市役所で行いましたが、人員不足から届けられる医療用製品は次々に山積みされ、病院が必要と依頼してもグローブのサイズはおろか、どこに何が入っているのか誰にもわからず、物が溢れているにも関わらず、結局出荷できないという事態が発生していました。また、悲しいことですが、届けられた医療用製品の中には開封済みの滅菌物や明らかに使用済みの物品等も送られてきており、我々の最初の仕事も廃棄処分とする物品の選別でした。これらはトラック一杯分にも達し、ただでさえ廃棄物の処理に困窮している被災地の行政担当者に精神的にも大きなダメージを与えていました。
 これらの課題に関しては、行政任せにせず、我々医療用製品メーカーも競合の枠を超えて、有事の際は連携して物品を搬送したり、現地代理店やSPDとも連携して救援物資の受け入れ態勢を災害の早期に確立できる様、日頃から話し合い、協業できる体制を整えておく必要があります。まだまだ何も実現していませんが、大規模自然災害では出来ることは何もないと思考停止せずに、行動に移していきたいと思います。

 今回の東日本大震災では、避難生活で体調を崩した等の理由で亡くなった「震災関連死」を含めると死者の総数は1.8万人を超えることとなり、今なお、2,590人の方々が行方不明となっているとのことです。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、未だ、発見されていない被災者の方々が一刻も早く大切な方々の元へご帰還できることを強く願っています。 

大震災当時(2011年3月)のブログはこちら↓
「モレーン・スタッフへのメッセージ」





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