介護施設、在宅・家庭における感染対策(感染制御)インフルエンザ、ノロウィルス、耐性菌

 
 ちょっと時間が空いてしまいましたが、インフルエンザやノロウィルスの季節に入りましたので、今回は在宅における感染対策に関して、ご家族、訪問介護員(ホームヘルパー)の方々向けに思うところを書いてみます。

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 私たちモレーンコーポレーションのビジネスは、急性期の規模の大きい病院に対する感染制御が軸になっています。医療関連感染(院内感染)の重大な問題は、感染リスクの高い患者が集まるこのようなセグメントの病院で多く発生しているので、当然と言えば当然ですが、昨今の薬剤耐性の問題(抗菌薬が効かない病原体の蔓延)が世界的に深刻化している昨今、感染制御が必要とされる領域は、病院だけでなく、「地域」そして「家庭」にまで、その対応が迫られています。
 抗菌薬が効かない耐性菌のリスクは甚大であり、厚生労働省の報告でも、耐性菌の感染によって2013年時点で世界で少なく見積もって70万人が死亡、2050年には1,000万人を超える(現在のガンによる死亡者数を超える)と警鐘を鳴らしています。

■病院以外でどのような感染リスクがあるのか?
病院以外では、介護施設などを含めた「地域内」、そして家庭での「家庭内」という新たな領域内での感染が増えることが懸念されています。高齢化に伴う医療費を削減するため、これまでであれば、病院に入院しているはずだったような極端に抵抗力の低い患者さんが「地域」や「家庭」で療養する機会が確実に増えると思われ、これらの「地域内感染」や「家庭内感染」をあらためて定義し、対策を確立する必要があると個人的には思っています。
 
 耐性菌の代表格でもあるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)はすでに市中に広く定着してしまっています。もともと黄色ブドウ球菌は皮膚や消化管の常在菌なのですが、高齢者など免疫力が低下している場合や、今後、在宅でも増えると思われる、カテーテルを留置しているような患者さんは、重症化することがあるので特に注意が必要です。介護施設や在宅には、病院のように特に免疫力が低下している重症患者さんは通常いないので、病院と同じレベルの感染対策は不要ですが、最近では腸内細菌に見られるESBL産生菌やメタロ-β-ラクタマーゼ産生菌という耐性菌が病院外の市中でも増えています。抵抗力の低い高齢者には呼吸器感染や尿路感染を引き起こすので、訪問介護員(ホームヘルパー)を含む従事者は特に利用者に触れる前や清潔操作の前には必ず手指衛生を行い、使い捨ての手袋・エプロンやガウンの着用等、厳格な感染対策が求められます
 また、便や尿、唾液や痰などの排泄・分泌物は重大な感染源になり得るので、これらが付着した可能性のある器具や備品、環境表面の洗浄・消毒も重要です。ここが汚染されたままだと、せっかく手指衛生をしても手指はすぐに再汚染する可能性があり、その手を介してさらに感染が広がってしまいます。

インフルエンザ・ノロウィルスのシーズン到来。
我々は何をすべきか?

 例えば、自宅療養中の高齢者の方がインフルエンザに感染したら命に関わります。家庭内こそ、医療介護従事者だけでなく、ご家族も一緒に高い意識で感染対策に取り組むことが大切です。
 通常の季節性インフルエンザは、手指などに付着したウィルスを体内に取り込む「接触感染」や、咳やくしゃみ、唾などの飛沫の曝露による「飛沫感染」であることが明らかになっています。感染経路の予測ができることから、在宅ケア、ご家庭における新型インフルエンザの感染予防対策は実はシンプル。下記の5点となります。;

1. 手洗い(手指衛生)
2. 予防接種(ワクチン)、抗ウィルス薬
3. 個人防護具(マスク、手袋、エプロン・ガウン、状況に応じてゴーグル)
4. 咳エチケット
5. 室内換気

 インフルエンザワクチンは、現在、最も予防効果が高いと認められている手法ですが、感染リスクがゼロになるわけではないので、たとえワクチンを接種した場合でも、手指衛生と咳エチケット、個人防護は、必須であることを忘れないで下さい。

■子どもから感染するのはしょうがない?
 在宅における高齢者の感染ももちろんですが、子どもが学校や保育所等で感染し、自宅で子どもから親に感染するといったケースも当たり前のようになっていますが、大きな問題です。親は当然、献身的に子どもを介護するため、結果的に密に接触し、高い確率で感染します。インフルエンザやノロなどでは、重症化するケースもあるため、感染した親は子どもの面倒を見れなくなるだけでなく、長期間仕事を休む必要があったり、職場で感染を広げるリスクがあったりと、健康面だけでなく、経済的にも大きな損失が出ている可能性があります。本来防ぐことができる感染が家庭内には多く存在すると思われるので、親が感染対策に対する知識をもっと深める必要があると思っています。

■じゃあ、どうしたらいいの?
 感染した子どもに密接に接触する場合や、吐物・排泄物に接触する場合は、マスクをし、接触後は必ず手指衛生(消毒用エタノール等のアルコール製剤「以下、アルコール」または、流水による手洗い)をするようにして下さい。食器類やタオルの共用は避け、使用済みのティッシュに触れた場合も同様に手指衛生が必須です。
 しかしながら、かくいう我々、感染対策を標榜するモレーンでも子供が小さい社員が大勢いるので、恥ずかしながらダウンする社員は実はいたりします(涙)。愛する子供が苦しんでいるのにマスクや手袋ができるか?という問いには私も一人の親として「ううっ、できねぇ...。」と思わず膝をつきそうになる部分も正直ありますが、子供や家族を守るためにも大切なことなので、少なくとも、手指衛生と咳エチケットは家族にも伝え、徹底するようにして下さい。自分のためでなく、愛する家族のため。親がダウンしては子供を守ることができませんし、同居の他のご家族もリスクにさらされます。
 咳エチケットに関してはコチラ(東京都感染症情報センター)

 手指衛生に関しては流水による手洗いも効果的ですが、その場で即座に消毒できるアルコールが便利なだけでなく、目に見える汚れがない限り、さらに効果は確実です。最近は近所の薬局やネットでも容易に入手できるので、ご家庭に手指衛生用アルコール(ジェルまたはスプレー)を常備するようにしてください。訪問看護・介護を受けているご家庭では必須です。訪問従事者が残念ながら手指衛生しないこともありますので、ご家族からも使用を促してください。

ただし、ノロウィルスの場合は、流水による手洗いを第一選択として下さい。アルコールのノロウィルスに対する消毒効果は否定されておらず、むしろ期待されていますが、ヒトノロウィルスは培養できない故に、その効果はまだ確立されていません。
 また、便や尿の排泄物や嘔吐物は重大な感染源になり得るので、清掃・処理した後は手指衛生はもちろんのこと、汚染した環境表面(家具や床等)は清掃だけでなく、消毒する必要があります。市販の家庭用塩素系漂白剤(ハイター等)であれば、約50倍希釈すれば、ノロ等にも有効な1,000ppmとなるので(ペットボトルのキャップ2杯分の原液を500mlペットボトルの水で満たせば出来上がり)、この溶液を使用して、汚物を十分に取り除いた後、その表面を一方向に(ゴシゴシしない)拭きあげてください。ゴシゴシすると汚染を広げることになります。その際は、換気と手袋を忘れずに。また、塩素系消毒剤は対象物にダメージを与えることが多いため、初めから除菌成分を含浸させたワイプ(ダメージを与えない)も市販されているので、こちらもご家庭に常備しておくことをオススメします。


汚染された環境は清掃だけでなく、消毒が必要

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介護従事者は、自分自身を感染から守れなければ、利用者を守ることはできない。

 感染対策には、手指と環境の衛生が重要とのお話をしましたが、介護従事者にとって同様に大切なことは、自身を守るための個人防護具(マスク、手袋、エプロンorガウン、アイウェア)を適切に使用することです。


 在宅介護は、利用者さんのご家庭内でのケアであり、相手が患者さんではなく、利用者さんであることからも「マスクや手袋で自分たちを防御するのは失礼だ」と献身的に考えている方も多いようですが、実際は全く逆です。自分を守らないと患者さん、利用者さんを守ることはできません。万が一自分が感染した場合、知らないうちに他の患者さん、利用者さんへ感染させてしまうリスクがあるということを忘れないでください。

■マスク
 一般的に販売されているマスクは、不織布製の使い捨てで、「サージカルマスク(手術用)」と呼ばれています。昨今ではコンビニ等でも簡単に手に入るモノですが、本来は医療現場で下記の用途で使用することを目的としています。
1)「マスクをしている人」の唾液などが、外に飛ばないようにするため
2)自分の咳による飛び散りを防ぐため(咳エチケット)
3)自分を血液・体液等の汚染から守るため

 花粉症予防でも多く使用されていますが、上記の通り、目的は自身が発する飛沫や、外部からの飛沫を遮断することであり、構造的に密閉度が限定的なため、微粒子の防御や空気感染の予防には適していません。昨今、微粒子やウィルスを99%カット!などと記載しているマスクをネットやコンビニ等でも多く目にしますが、仮にフィルター性能がそうだとしても、顔面との装着にわずかでも隙間があれば微粒子は難なく通過してしまいます。

ただし、サージカルマスクはその目的から、顔面との密着には適した構造になっていないのですが、少し気をつけるだけで、エアロゾル等の微粒子を大幅に防御することも可能です。

よって、マスクは装着方法が非常に重要です。

マスクの着用方法は下記の通りです。;

手指衛生をした後、いきなり装着せずに、鼻部の留め金を鼻の形に合わせて折る。


装着した後、留め金を上から押さえ、隙間のないように調整する。

最も隙間ができやすい部分なので、しっかりと調整する。ここに隙間がないとメガネも曇りにくい。

鼻部を押さえ、プリーツをしっかりとアゴの下まで伸ばす。

最後にイヤーストラップを伸ばして、横からの隙間もないように調整する。
 インフルエンザは飛沫感染なので、上記のようなサージカルマスクは有効です。
ただし、よくマスクを一日中つけている方がいますが、マスクは湿ってしまうと効果が下がるため必要な時にのみ着用するようにしてください。また、マスクを一日中着けていると、着けたり外したりと頻繁にマスクに触れることになり、マスクも汚染されている可能性があることから手指が汚染し、感染のリスクも増えることになります。マスクに触れた後は、必ず手指衛生をするようにしてください。

 時々、マスクから鼻を出している人がいますが、言うまでもなく、それでは意味がありません。また、マスクは自分を守るだけでなく、もし自分が感染していたら利用者さんにうつさないという目的もありますから、特にインフルエンザのシーズンは利用者さんごとに交換して着用するようにして下さい。飛沫は約2m飛ぶと言われていますので、人混みや公共交通機関等を利用する際もマスクの装着をお勧めします。

マスクを外すときも注意が必要。マスク表面には触れないようにストラップから外す。


マスクはどう選べばいいの?
 先に述べたように、マスクはコンビニを始め、様々な製品が入手可能となっていますが、実際の大学病院等の急性期医療現場で感染予防用に使用されている製品、医療用サージカルマスクには、一つの規格があります。米国の規格ですが、ASTM F2100-11という性能要求要件に見合ったモノが医療用マスク採用の最低条件となっているので(パッケージに表示義務)、マスク選択の際の基準としていただけたら間違いないと思います。



■手袋・エプロン
 また患者さんのおむつ交換等、体液や排せつ物に接触する可能性がある場合は、手袋やエプロンをするようにします(状況に応じてマスク、アイウェア)。訪問医療や訪問介護の場合、一日に数件の患者さんのお宅に伺うことがありますが、この場合、使い切りが基本です。ディスポーザブルタイプのものを使用して処置ごとに交換してください。この際も、外した後は必ず手指衛生をして下さい。使い捨ての手袋は、使用中も劣化し、目に見えないピンホールが空くことがありますので、外した後も必ず手指衛生(汗もかき、雑菌の繁殖もあるので、できれば流水による手洗い)が必要です

 手袋で特に気をつけて欲しいのが、使用後は直ちに外すことです。手袋は使用後は当然汚染されているので、その手で周囲を触ると感染のリスクが広がります。手袋の目的は着用者を汚染から守ることですが、着けっぱなしにすると自分は守られても周囲をリスクに曝すことになります。
 また、手袋の上から、アルコールで手指消毒をする方をたまに見かけたりしますが、これも厳禁です。樹脂製の手袋はミクロベースでは表面に凹凸があり、汚染除去し難いだけでなく、アルコールで劣化もするので、ピンホールが空きやすくなります。

 個人防護具を脱ぐ場合、その順番が重要

 使用済みの個人防護具は、それ自体が汚染を広げるリスクがあるため、汚染度の高いモノから脱ぐのが基本です。また、首から上は簡単に洗ったり、消毒したりできないので、マスクやゴーグルは手指衛生をした後、最後に外すようにします。

個人防護具の脱ぎ方および順番は下記の通りとなります;



グローブが最も汚染されているので、脱ぐテクニックは必ずマスターして下さい。





首から上の防護具を外す前に必ず手指衛生をして下さい。


下記は一連の動画です。参考にして下さい。



インフルエンザやノロウィルスは、感染を100%防ぐことはできませんが、上記のポイントに気をつければ、そのリスクを大幅に下げることができます。
 感染対策には目的が2つあります。1つは患者さん、利用者さん、家族を感染から守るという事、そしてもう1つは医療介護従事者を感染から守る事です。インフルエンザのように爆発的に感染が広がる病気の場合、医療介護従事者自身が市中で感染し、施設または家庭に持ち込む可能性もあるので、流行中は、自身を守るためだけでなく、まわりを守る意味でもワクチン接種は重要です(感染した場合も重症化を防ぎます)。また、地域の介護施設、在宅での感染対策は上記に述べたような3本柱、1.手指衛生、2.環境衛生、3.個人防護具に尽きると言っても過言ではありません。
 介護施設や在宅の利用者さん、そして自身のご家族を守るためにできること、それは3本柱の実践あるのみです。

 今回はブログ形式で思うところを書いているうちに長文となり、参考文献等は記載しておりませんが、何か必要なものやご質問がありましたらお気軽にお問い合わせ下さい。

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