SARSから学ぶこと

今回はちょっと専門的な話です。今さらながら、非常に気になっている文献があります。

2003年のSARSアウトブレイクの際、陰圧隔離、適切な個人防護具PPE(N95、グローブ、ガウン、アイシールド)や入念な手洗いを実施していたにもかかわらず、9名の医療従事者がSARSに集団感染したとの報告(トロント、カナダ)です。

原因を要約すると、
1)病室は陰圧だったが、前室がなく、PPEを室内外で外していた。
2)汚染されたPPEを外す手順が徹底されていなかったため、外す際に自身が汚染された可能性があった。
3)N95のフィットテストが徹底されていなかった。トレーニングプログラムがなかった。
4)挿管時に多量のエアロゾルが発生する危険性があるのに、曝露を最少にする対策がなかった。
とのことでした。

この悲劇、もし今、新型インフルエンザが発生したら日本でも同じことを繰り返してしまいそうと危惧するのは私だけでしょうか...。

新型インフルエンザ・パンデミックに備えて、自治体や医療施設、企業が動き始めました。まだまだ自治体によってかなり温度差はありますが、個人防護具(PPE)の備蓄も徐々に進行し、大量購入のお話も出て来ています。ただ、今のままで行くといくらモノが揃っても、その運用手順が整備されず、トレーニングが十分に実施されないと上記のトロントでの教訓を活かす事ができません。

個人防護具PPEは、運用を間違うとかえって感染を拡散させることになります。着用する順番も重要であり、この順番を間違うと当たり前のことですが、外す順番に影響を与え、汚染部位に不必要に接触することになり、自身や周辺環境を汚染させてしまいます。どこで汚染PPEを外すのか、外したPPEを直ちに廃棄できるダストボックスは配置されているのか等々、個人防護具PPEは、その性能もさることながら、その運用が非常に重要です。

新型インフルエンザに対する医療施設での感染対策は、個人防護具PPE(特にマスク・レスピレーター)に議論が集中しがちですが、手指衛生や咳エチケット、汚染リネンのマネージメントや環境整備等、総合的にリンクしてはじめて達成することができます。

モレーンの強みはまさにココ。施設に応じたより最適なソリューションをご提供できるよう日々、研鑽したいと思います。

上記のSARSの文献は、下記よりダウンロードできます。ご参考まで。;

Cluster of Severe Acute Respiratory Syndrome Cases Among Protected Health-Care Workers - Toronto, Canada, April 2003 MMWR52(19):433-436
http://iier.isciii.es/mmwr/index2003.htm

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